大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和58年(ワ)8718号 判決 1984年4月24日

原告 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 古田修

同 近藤俊昭

同 中村眞一

被告 国

右代表者法務大臣 住栄作

右指定代理人 細井淳久

<ほか一名>

主文

一  本件訴を却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一三八万九〇〇〇円及びこれに対する昭和五八年八月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第1項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の答弁)

1 本件訴を却下する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(本案の答弁)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、東京都港区《番地省略》乙山ビル二階において、喫茶店「チェリー」を経営していたものであるが、昭和五八年一月二八日、その所有する現金一五一万円を右店舗内において保管していた。

2  同日、原告は常習賭博幇助罪の容疑で右店舗内において現行犯逮捕され、これに伴い、右現金一五一万円を警視庁愛宕警察署司法警察員に差し押えられた(以下この現金を「本件差押金」という。)。

3  原告は、右事件(後に常習賭博罪に変更)につき、昭和五八年四月二〇日、東京地方裁判所において有罪判決を受け、本件差押金一五一万円中一二万一〇〇〇円は犯罪により得たものとして没収されたが、残金一三八万九〇〇〇円は没収されず、右判決は確定した。

よって、原告は、被告に対し、本件差押金一五一万円のうち没収されなかった一三八万九〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五八年八月二六日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による利息の支払を求める。

二  被告の本案前の主張

本件差押金は、刑事訴訟法二二〇条に基づく差押物であるから、その返還を求めるには刑事訴訟手続のみによるべきであり、民事訴訟によって返還を求めることはできないと解すべきである。したがって本件訴は不適法である。

三  請求原因に対する認否

請求原因事実はすべて認める。

四  抗弁

原告は、昭和五八年二月七日、本件差押金の所有権を放棄する旨の意思表示をした。

五  抗弁に対する認否

抗弁事実は認める。

六  再抗弁

原告は、司法警察員から本件差押金はいずれも全額没収になるのであらかじめ所有権を放棄しておいた方が有利である旨を言われたため、抗弁記載の所有権放棄の意思表示をしたものである。ところが、本件差押金のうち一三八万九〇〇〇円は、請求原因記載のとおり没収されなかった。したがって、右所有権放棄の意思表示には錯誤がある。

七  再抗弁に対する認否

再抗弁事実のうち、本件差押金のうち一三八万九〇〇〇円は没収されなかったことは認めるが、その余は否認する。

第三証拠《省略》

理由

本件訴は、原告が現行犯逮捕される際に司法警察員に差し押えられた現金の返還を民事訴訟において求めるものであるが、このように刑事訴訟手続上差し押えられた物は、本来、刑事訴訟手続上の手段によって返還を求めるべきものであって、民事訴訟による返還請求は、この刑事訴訟手続上の手段による返還請求ができない特段の事情がある場合を除いて、原則として、不適法というべきである。しかるところ、本件において右の特段の事情があると認めることができない(なお、本件においては所有権放棄の効力が争点となっているが、そうであるからといって右の特段の事情があると解することはできない。)から、本件訴は不適法であるといわなければならない。

よって本件訴を却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達德 裁判官 森義之 裁判官岩田嘉彦は転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官 宍戸達德)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例